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鵺野蛾太郎が往く

物語
02 /12 2013
(これは架神恭介さんの飛行迷宮学園ダンゲロスのSSです。
すっごく面白いので興味を持った人は是非買おう!)


「貴女が深紅鴉(しんくからす)さんだね?」
正午過ぎ、客がいるのにも関わらず静けさを保ったミルクホール「アシタバ」で、
鵺野蛾太郎(ぬえのがたろう)は白金遠永(しろがねえんと)との
約束を果たそうとしていた。
深紅色のスパンコールを無数に付けた派手なドレスを着た女は
顔だけを鵺野の方に向け、「そうだけど」と短く応えた。
「小生の名は鵺野蛾太郎。ヌガーさんなどと呼ぶ者も居るが、
まぁそれはどうでもいい。今日は貴女にこれを渡しに来たのだよ」
そう言うと纏っていた濃緑色の袴から
ガサゴソと長方形で淡いピンク色の手紙を取り出した。
「ラヴレターだよ、貴女宛の-」

事は数日前に遡る。

「ヌガー、君に頼み事があるんだ」
「貴方から頼み事とは珍しいね。厄介なことかい?」
いや、そう厄介でもないのだが-、そう言いながら白金遠永は一つの手紙を取り出した。
「うちの『転校生』が書いたものなんだが」
鵺野は遠永から手渡された手紙をまじまじと眺めた。
手紙の中央部分には「深紅鴉さんへ」と書かれている。
「それをそこに書いてある名前の女性の元へ届けてもらいたいんだ」
「ふむ・・・」
恋文か-、そう呟くと鵺野はしばし黙り込んだ。
「『SLGの会』の者が書いたのかね?」
「そう。ラブレターなんて君の時代のように前近代的で可笑しいかい?」
「いや、おかしくはない。人の恋路を邪魔するつもりは毛頭無いのでね。
しかし、なぜ小生が渡す必要があるのかね?
本人が直接渡せば良いだけではないかね?」
「それには理由があるんだ。それを受け取る女性の能力に関係していてね」
「相手も『転校生』なのだね」
「ああ。彼女の能力名は『Hello Sadness』。人の心を読み取る能力だ。
ただし幾つかの条件があってね。
一つに、心を読む当事者の手書きの手紙を満遍なく読みおおせる事。
二つに、その手紙を見知らぬ第三者から受け取ること。
この二つがあって始めてその人の心が読めるんだ」
成る程、自分の能力を使って相手の気持ちが本当かどうかを確かめるのか-
「そしてその方法でしか彼女には恋心を伝えられないと言う訳なんだ。
それ以外は彼女が拒絶している」
そこまで聞いて鵺野はふと一つの疑問を感じた。
「見知らぬ第三者と言うなら、貴方が渡しに行っても良いのではないかね?」
それがそうはいかないんだ-、
そう言うと遠永は手元にあるティーカップを持ち上げ、紅茶を啜った。
「実は以前同じ事があってね、彼女とは顔見知りなんだ」
「以前にも同じ事が?」
「ああ。手紙を書いた人物は今回とは違うんだが、同じようなケースに出くわしてね。
その時は俺が渡しに行った。その恋は成就しなかったんだが・・・。
その時に彼女と幾ばくかの話をしてね。どうも彼女に恋心を寄せる男は多いようだ」
恋愛事は滅法苦手だが、手紙を渡すだけならそうたいしたことでもあるまい、
鵺野はそう思った。
「して、彼女はどこに居るのだね?」
「そこが君にこれを頼もうとした理由なんだ。
彼女は決まって正午からミルクホール「アシタバ」の左奥のカウンターに居る。
ミルクホールなら君の十八番だろう。「アシタバ」へ行ったことは?」
「何度か行こうと思った事はあるが、まだそれは達せていないね」
それは丁度良かった、と遠永は言った。
「是非行ってくれたまえ。俺を助けると思って」
助けるとは大げさな、と鵺野は思ったが、それは口には出さなかった。
「分かった。行こう。」
そう応じて鵺野は席を立とうとしたが、思い出したように、
「ちなみに、何か報酬はあるのかね?」
と、遠永に尋ねた。
「報酬は- 美女との素敵なひとときだよ」
遠永は手短に答えた。

「では、小生はこれで」
約束を果たした鵺野蛾太郎が深紅鴉の元を去ろうとした時、深紅は鵺野を引き留めた。
「ちょっと待って。一杯だけでもいいから何か飲んでいかない?
私、手紙を持ってきた人と話すのが数少ない楽しみの一つなの」
鵺野とてミルクホールで時間を過ごすのは苦痛ではない。むしろ日常茶飯事である。
ましてやここは初めて来る有名店「アシタバ」である。
アシタバの内部の本格的な作りは目を細めるような美しさだ。
鵺野蛾太郎は帰る足取りを止めた。
「そういうことなら」
「何か頼む?」
しばしメニューを見て考えていた鵺野蛾太郎であったが、マスターに
「ミルクを。それと砂糖菓子をくれ給え」と注文した。

さきほどから深紅鴉はラブレターをじっと読み込んでいる。
鵺野蛾太郎はそれを横目に見つつ、ミルクを飲み、砂糖菓子をかじっている。
連れてきたクワガタにも砂糖菓子をかじらせていた。
「ふぅ」と深紅が一息を付いた。どうやら読み終わったようだ。
何気なく鵺野は「どうかね?」と尋ねた。
「この人の気持ちは本当ね。文と心が一致しているし、
裏のやましい心も気になるほど感じない」
それはオゥケィと言うことなのかと鵺野が思い始めた時、
「でもダメね。この人とは付き合えないわ」
そう言うと深紅は手紙を自分のポーチに入れた。
「私、分からないの。
どうして無限のような有限の時間を手に入れた存在である
『転校生』が恋をするのかって。
いつか死ぬからその時間まで一緒にいようって言うのなら分かるわ。
でも本当に「いつまでも」一緒なんて怖気が立つと思わない?」
全くだ-、鵺野は心から同感だと思った。
どうして『転校生』にまでなった人物が恋などという些少な事に一喜一憂するのだろうか。
自分の世界を造る事に興味を無くした『転校生』が
気まぐれに起こす与太話に過ぎないのではないだろうか。
「私、もう『転校生』とは恋も愛もしないって決めてるの。するとしたら一般人としたいわ」
さりとて深紅は積極的に世界を行ったり来たりする事もなく、
いつも昼は「アシタバ」で時間を潰している。
「アシタバ」では一般人と出会うことなどないというのに。
「それならば『転校生』とはもう付き合わないと宣言したらいいのではないかね?」
「実はもうしてるの。それでもたまにこうして知らない人が手紙を持ってくるという訳」
「ふむ・・・」
鵺野は、小さく溜息を吐いてから、
「それは」
全く面倒臭いことだね-、と言った。
深紅はまじまじと鵺野を見つめながらこう尋ねた。
「あなたも恋とか愛とかいまだに言ってるの?」
鵺野は自分の話はあまりしたがらない。ましてやコイバナなどは尚更である。
「小生は-、そうだね、小生の友人のクワガタの話になるんだが」
そう言って鵺野は自分の話から逸らした。
「名前を花(ハナ)というんだが、こいつには恋人がいた。
小生と共に最強を目指すために恋人と別れたんだ。
割り切れぬつらい別れだったが、それでも最強を目指す道は捨てられなかった。
それでもこいつが時折漏らすんだ。恋人に会いたいと。
恋とはそういうものなのやもしれないね」
「ふぅん」と漏らすと深紅は飲みかけの紅茶を飲み干した。
鵺野のミルクも丁度底を付いた頃である。
「このあたりが潮時だね。失礼する」
「最後に一つ聞かせて。ヌガーさん、運命の出会いって信じる?」
「小生は信じているよ。このクワガタ達に出会えたのも運命の巡り合わせだ。では失敬」

鵺野蛾太郎は恋は滅法苦手だ。愛もできるかどうか分かりはしない。だが、友情は-
花、清(キヨ)、千(チヨ)、文(フミ)との友情は、本物だと思うから-

己の信じる世界のため、鵺野蛾太郎は今日も往く-

おわり
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けった

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