龍上湖伝説

物語
01 /12 2013
昔、日向国に娘がおりました。
名前を名希(なき)と言いました。

娘は朝起きてはしくしくと泣き、朝ご飯を食べては泣き、
お出かけしては泣き、家に帰っては泣き、お昼ご飯を食べては泣き、
おやつを食べては泣き、晩ご飯を食べては泣き、寝る前に泣いておりました。
とにかく名希は大変な泣き上戸だったのです。

名希の両親はこれを大変に心配し、
名希が泣く度に「おお名希よ、何が悲しくて泣くのか」と尋ねておりました。
名希は「何が悲しいのでもない、ただただ涙が溢れるのだ」と答えては泣いておりました。

ある日、名希の家の前で立派な体躯をした男が倒れておりました。
名希の両親は男を介抱し、食べ物を分け与えました。
すると男は食べ物をがつがつと平らげた後、
「ありがたい、このお礼は必ずする」と述べました。
男は自分の名前が龍男であると告げました。
そこに名希がひっくひっくと泣きながら顔を出しました。
龍男は「娘よ、何が悲しいのか」と問いました。
名希は「何が悲しいのでもない、ただただ涙が溢れるのだ」といつものように答えました。
龍男は「そうか」と応え、「これが効くかもしれない」と胸元から塗り薬を出しました。
「これを眼の下に塗るとよい」と言うと、名希の両眼の下に薬を塗りました。
すると、みるみるうちに名希の涙がとまりました。
名希の両親は「おお、娘の泣いていない姿を見るのも久方ぶりだ。なんとありがたいことか」
と龍男に感謝の意を伝えました。
龍男は「たいしたことではない」と言い、
「しばらくここに身をよさせてもらえないだろうか、家の手伝いはなんでもする」と言いました。
名希の両親はこれを承諾しました。
龍男は名希の家で大いに働きました。

龍男が名希の家になじんだ頃、豊前国との戦が起こりました。
龍男は戦に招集されることとなりました。
「なに、心配はいらない。戦が終わればすぐに戻ってくる」と言い残し、
龍男は戦へ向かいました。

龍男が戦へ向かってから一月、名希の家に使者が訪れました。
使者が言うには、「龍男殿は戦場にて八面六臂の活躍を見せた」
「我が軍が敗勢になった時、龍男殿は最後まで逃げずに戦った」
「龍男殿が我が軍最後の一人になった時、ふいに龍男殿の身体が龍になり、天まで駆け上った」
「空からはいかずちが落ち、豊前の軍は後退していった」
「龍男殿は戻って来ることはなかった」と告げました。

この使者からの報告を受けると、
名希の顔がみるみるうちに紅潮し、目から一粒の涙がこぼれました。
一粒がひとしずくとなり、そのうち声をあげて名希は泣きました。
おいおいと声をあげて泣いているうち、
名希の涙が水位を増し、川のようにあふれ出しました。
名希はそれでもまだ泣き続け、家を飲み込み、村を飲み込みました。
名希の村は湖となりました。

この湖はのちに龍上湖と呼ばれるようになり、
湖周辺の村は日照り、干ばつに困る事がなくなったそうです。
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